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東京地方裁判所 昭和39年(ワ)7505号 判決 1965年2月23日

原告 三栄興業株式会社

被告 株式会社 産光 外二名

主文

被告日本拓殖株式会社は原告に対し、別紙目録<省略>記載(一)の物件に対する東京法務局昭和二九年一〇月六日受付第一五、四一一号、同目録記載(四)の物件に対する同法務局昭和二九年一〇月一一日受付第一五、六〇五号の各所有権移転請求権保全仮登記に基づく、原告の本登記申請につき承諾せよ。

原告の同被告に対するその余の請求及びその余の被告両名に対する請求を棄却する。

訴訟費用は、原告と被告日本拓殖株式会社との間においては、原告に生じた費用を三分し、その一を同被告の負担とし、その余を各自の負担とし、原告とその余の被告両名との間においては、全部原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は「被告らは原告に対し、別紙目録記載(一)ないし(三)の物件に対する東京法務局昭和二九年一〇月六日受付第一五、四一一号、同目録記載(四)の物件に対する同法務局昭和二九年一〇月一一日受付第一五、六〇五号の各所有権移転請求権保全仮登記に基づく、原告の本登記申請につき承諾せよ。被告株式会社産光は同目録記載(一)ないし(四)の物件につき同法務局昭和三八年八月三〇日受付第一三、二七三号の停止条件附所有権移転仮登記、同日受付第一三、二七二号の抵当権設定登記、同日受付第一三、二七四号の停止条件附賃借権設定仮登記の、被告大川美明は同目録記載(一)ないし(四)の物件につき同法務局昭和三八年一二月二七日受付第二〇、七三四号の停止条件附所有権移転附記第一号登記、同日受付第二〇、七三三号の抵当権移転附記第一号登記、同日受付第二〇、七三五号の停止条件附賃借権移転附記第一号登記の、被告日本拓殖株式会社は同目録記載(一)ないし(四)の物件につき同法務局昭和三八年一二月二七日受付第二〇、七三七号の停止条件附所有権移転附記第二号登記、同日受付第二〇、七三六号の抵当権移転附記第二号登記、同日受付第二〇、七三八号の停止条件附賃借権移転附記第二号登記の各抹消登記手続をせよ。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決を求め、

請求原因として

一  別紙目録記載(一)ないし(四)の物件はもと訴外晉撤夏の所有であつた。

二  原告は晉撤夏に対し昭和二九年一〇月五日金三〇〇万円を次の約定で貸付け、且つ同人が期限に弁済しないときは、その弁済に代えて右物件の所有権を取得することができる旨の代物弁済の予約をし、右物件について主文第一項掲記の各所有権移転請求権保全の仮登記をした。

(1)  弁済期 昭和三九年一二月末日

(2)  利息の利率 年一割五分

(3)  期限後の損害金の利率 一〇〇円につき日歩八銭二厘

三  原告は弁済期を経過して後晉撤夏に対し昭和三〇年一一月一九日附同日到達の内容証明郵便で、元本三〇〇万円及び期限後同日までの損害金全額の弁済に代えて、右物件の所有権を取得する旨の予約完結の意思表示をした。

四  ところで右物件については、原告の仮登記の後、被告らのために次のような各登記がなされている。

(イ)  被告株式会社産光のため、東京法務局昭和三八年八月三〇日受付第一三、二七三号の停止条件附所有権移転仮登記、同日受付第一三、二七二号の抵当権設定登記、同日受付第一三、二七四号の停止条件附賃借権設定仮登記。

(ロ)  被告大川美明のため、同法務局昭和三八年一二月二七日受付第二〇、七三四号の停止条件附所有権移転附記第一号登記、同日受付第二〇、七三三号の抵当権移転附記第一号登記、同日受付第二〇、七三五号の停止条件附賃借権移転附記第一号登記。

(ハ)  被告日本拓殖株式会社のため、同法務局昭和三八年一二月二七日受付第二〇、七三七号の停止条件附所有権移転附記第二号登記、同日受付第二〇、七三六号の抵当権移転附記第二号登記、同日受付第二〇、七三八号の停止条件附賃借権移転附記第二号登記。

五  原告は以上の理由により、被告らに対し次の請求をする。

(イ)  原告の仮登記に基づく本登記申請につき被告らの承諾。

(ロ)  原告の仮登記より後順位にある被告らの各登記の抹消。

抗弁に対し

被告ら主張事実は認める。しかし原告は、別紙目録記載(二)(三)の物件と同一敷地番内に建築した新建物の保存登記のため、その前提として右物件の滅失登記が必要である。そのため原告は所有権の登記名義人たる必要がある

と陳述した。

被告ら訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、

答弁として

第一項の事実は不知。

第二項の事実のうち、原告主張のような仮登記がなされていることは認めるが、その余の事実は不知。

第三項の事実は不知。

第四項の事実は認める。被告株式会社産光及び被告大川美明は、右物件についての登記せられた権利を総て被告日本拓殖株式会社に譲渡し、その旨の附記登記を経由したのであるから、もはや原告の本登記申請については何らの利害関係をも有せず、又被告らの各登記の抹消に関しては、既に登記義務者としての地位を失つている。

抗弁として

別紙目録記載(二)(三)の物件は取毀しにより既に滅失している。なお法律上の主張として

不動産登記法一〇五条によつて準用される同一四六条一項は、単に本登記の手続に関する規定に過ぎず、それ以上に仮登記権利者のため、登記上利害関係を有する第三者に対し、承諾を求める実体的権利を与える趣旨の規定ではない。従つて仮登記権利者は、該第三者に対抗しうべき裁判を得るためには、予め第三者との間に承諾の意思表示をなすことについての特約が必要であり、そうでない限り第三者に対し、仮登記の効力として承諾の意思表示を強制することはできないと解すべきである。もし右条項が第三者に対し承諾を強制する趣旨ならば、不法に第三者の財産権を侵害し、憲法二九条に違反するといわねばならない。要するに、右条項は第三者の権利を害しないために、当該本登記についての利害関係人全員の合意の上で本登記を行わせる趣旨の規定であると陳述した。

証拠<省略>

理由

一  別紙目録記載(一)ないし(四)の物件につき、原告主張のような登記が、原告のため、次いで被告らのために、順次なされていることは、当事者間に争いがない。そしていづれも成立に争いない甲第一号証の一、二、第二号証、乙第二、第三号証及び弁論の全趣旨によれば、右物件はもと訴外晉撤夏の所有であつたが、原告は同人に対し昭和二九年一〇月五日金三〇〇万円を原告主張のような約定で貸付け、その担保として右物件につき代物弁済の予約をし、次いで原告のため、前記のとおり所有権移転請求権保全の仮登記をしたこと、原告は昭和三〇年二月一九日、右貸金銭元本二、八五八、六七九円とこれに対する期限後同日までの約定損害金との合計三、六一五、八二九円の弁済に代えて、右物件の所有権を晉撤夏から取得したこと及び原告は同人に対し確定判決により、その旨の本登記請求権が認容せられたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

二  ところで原告は本件訴訟において、被告らに対し、仮登記に基く本登記申請につき承諾を訴求すると共に、仮登記後その本登記と相容れない権利取得につき、被告らのためになされた登記の抹消登記手続をも合わせて訴求している。しかしながら、仮登記権利者が本登記を申請するにつき、登記上利害関係を有する第三者に対抗しうる裁判として、同人に対する承諾請求認容の判決があれば、本登記と相容れない第三者の登記は、何らの申請を要せず、本登記と同時に職権で抹消せられるのである(不動産登記法一〇五条、一四六条一項)から、仮登記権利者は当該第三者に対し、承諾を求める権利の外に、更に抹消登記請求権を有するものではないと解される。そして仮登記権利者は、本登記をなすに必要な要件を具備するに至つたときは、仮登記の順位保存の効力により、当該第三者に対し本登記申請についての承諾を求める権利があると解すべきであり、このように解しても第三者の権利を不当に害することにならないし、憲法にも反しない(最高裁昭和三二年六月一八日判決、集一一・六・一〇八一、同三八年一〇月八日判決、集一七・九・一一八二の趣旨参照)。

なお、原告は被告日本拓殖株式会社の外に、被告株式会社産光及び被告大川美明に対しても、登記上利害関係を有する第三者であるとしてその承諾を訴求しているが、前記のとおり、被告株式会社産光名義でなされた主登記たる停止条件附所有権移転仮登記、抵当権設定登記、停止条件附賃借権設定仮登記は、いづれもその後順次、附記第一、第二号登記により、被告大川美明を経由して被告日本拓殖株式会社に移転せられ、現に同被告名義として登記せられているのである。そしてこのような場合に、実体的な利害関係の観点から、原告の請求に副う見解も有力である。しかしながら、登記上の利害関係については、そのような観点から考慮する必要がないと思われるので、同被告を除くその余の被告両名は、原告の本登記申請につきもはや登記上利害関係を有しないものと解すべきである(大審院昭和一三年八月一七日判決、集一七・一六〇四の趣旨参照)。従つて右被告両名は承諾について何ら権利義務を有しない。

三  次に、別紙目録記載(二)(三)の物件が、取毀により既に滅失していることは、当事者間に争いがない。従つて右物件の所有権は消滅し、原告の仮登記も既に効力を失い、原告は右物件につき、もはや本登記を申請しえないと解される。原告は、右物件と同一敷地番内に建築した新建物の保存登記のため、その前提として右物件の滅失登記が必要であると主張するが、新建物の保存登記は、旧建物の滅失登記の有無に関係なく申請しうるわけであり(昭和三五年四月七日付法務省民事局長通達、法曹時報一二・五・六六一参照)、又滅失当時の所有者であつても仮登記権利者にすぎない原告には、滅失の登記申請義務もない(不動産登記法九三条の六、一五九条の二)。

四  以上の理由により、被告日本拓殖株式会社は原告に対し、別紙目録記載(一)及び(四)の物件の本登記申請につき、承諾義務がある。従つて原告の同被告に対する本訴請求は、右限度で理由があり、これを認容するが、その余の請求及びその余の被告両名に対する請求は、いづれも理由がなく、これを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴八九条、九二条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判官 高木実)

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